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(いずれも 日光丸沼への初めてのおでかけにて)
付記:上尾市医師会報 2009/7 月号 掲載「産婦人科領域トピックス」
を転載します。
2009年1月・4月・10月の産科領域トピックスについて
解説しました。
昨年の麻生総理大臣の「100年に一度の"未曽有"(みぞう)の経済危機」
発言以来、何回"未曽有"というフレーズが使われてきただろうか。
しかし産婦人科領域においては、「未曽有」の医療危機は、もう数年前から始まっていたのである。
そして「産科崩壊」を食い止めるため、今年に入り様々の施策が次々打ち出されている。
などが、決まった。
しかし、妊婦さんへの正確な情報提供もなされぬうちに制度運用が開始されたため、
現場は準備に追われ、患者さんからのクレームに対応し、煩雑な事務手続きに忙殺されている。
どんな制度にもメリット・デメリットがあり制度開始時には混乱を招く。
そして開始時の目的に適った制度を創り上げるまでは、監視の目をゆるめないことが必要になる。
以下に(1)〜(3)の制度について簡単に述べさせていただく。
産婦人科医にとって、医療訴訟の増加、補償額の高額化が、
若い医師が産婦人科を敬遠する原因の一つと考えられている。
特に福島県立大野病院の加藤医師が逮捕されていく姿は、多くの
産科医にとってトラウマとなった。
また、訴訟の中でも特に、脳性まひ児に対する損害賠償金は、
高額化の一途を辿り、1億〜1億5千万円もの判決も出るようになった。
そこで産科医の訴訟リスク回避と、補償額の低額化、また訴訟を起こさなくても
妊婦さんが無条件で3000万円の補償が受けられる制度として、
「産科医療補償制度」が考えられた。
産婦人科医会、学会、厚生労働省が、昨年の夏以来、全国を回って、
産科取扱い機関への説明を行い、制度への加入を呼びかけた。
制度運用組織である「日本医療機能評価機構」の妊婦さん向け案内には、
産科医療補償制度とは
分娩に関連して発症した重度脳性まひの赤ちゃんと家族に、訴訟を起こさなくても、
速やかに経済的補償を提供し、重度脳性まひ発症の原因分析を行い、産科医療の質の向上を
図る制度であると謳われている。
補償対象は、
補償内容は、分娩に関連して発症した重度脳性まひと認定された場合、
準備一時金600万円+補償分割金 2,400万円(年間120万×20回)
(児の生存・死亡に関係なく児が20歳になるまでの、看護・介護費用として、毎年定期的に給付する)
制度の仕組みは、
分娩取扱い機関が加入し、掛け金一人一分娩3万円は、分娩取扱い機関
が、運営組織日本医療機能評価機構に支払い、組織は全国の分娩機関
から集めた掛け金を、保険者である損害保険会社に預けて運用を任せる。
掛け金3万円の負担のため、分娩費用3万円の加算をし、加算分は、
出産育児一時金を35万円から38万円に増額することで妊婦さんに説明
する。
このような複雑な仕組みが出来上がり、分娩機関への加入が促され、
未加入機関では、安心・安全なお産が出来ないようなキャンペーン活動が
行われた。
さらに、未加入分娩機関での出産に対しては、3万円の一時金増額は行わない、
また20年度4月から認められるようになった「ハイリスク妊娠・分娩管理加算」の
保険請求を認めないなどの縛りがなされ、そのためほとんどの分娩取扱い機関は
加入することになった。
助産所を含む全国の99.8%の分娩取扱い機関において制度運用開始となったのである。
当院では、この制度へ多くの疑問を持ち、加入を見合せてきたが、
診療報酬での締め付け、厚生労働省と読売新聞のプロパガンダに屈し、
4月より加入機関となった。
今後はせめて、余剰金が損害保険会社の利益として吸いとられることのないよう、
厳重に注視しなければならない。
国会答弁では、年間500〜800人の脳性まひ児発生を想定し、余剰金は出ないとの
試算だが、専門家の間では、せいぜい150〜250人とも言われており、そうなると余ったお金の
行方がわからなくなる。
そもそも、掛け金3万円で3000万円の補償金などという保険が存在することが常識としておかしい。
本来保険会社のセールスマンが行う勧誘を分娩機関に負わせ、掛け金は、医療機関が支払う。
年間1000件のお産を取り扱う医療機関なら、年間保険料支払いは3000万円に達する。
日本医師会の医賠責保険の掛け金が、年間5万円にもならないのに、
一億円の賠償金に応じることを考えると、掛け金の高額さを理解いただけるだろう。
それを、分娩費用に上乗せする。
なぜ 複雑なルートを作らず、厚生労働省がはじめからそのために
準備金をとっておいて、出来高払いに出来ないのか疑問である。
この制度のために、天下りの運営組織が出来、40人もの専従職員
が配置され、年間300億円(100万分娩×3万円)の掛け金が
損害保険会社に流れる。
せいぜい多く見積もっても、使われる補償金は100億円位かもしれない。
その上、脳性まひ児に対する差別を助長すると、全国脳性まひ児を
抱える家族は制度への反対を表明している。
今後この制度がより良い方向に運用されるよう監視していきたい。
せめて、余剰金は、先天性も含むあらゆる脳性まひ児の補償に向かう
よう望む。この制度が産科医の保身ととらえられないためにも、
真の意味の「ノー・フォールト」(無過失補償)となるための1歩であってほしいと願う。
H20年度第2次補正予算成立が遅れたため、3月末に慌てて準備したためか、
妊婦さんへの周知徹底も遅れ、現場の医療機関への通知も実施3日前になされ、
各市町村での足並みも揃わないまま4月1日を迎えた。
埼玉県はこれまで、妊婦健診は5回を公費負担で行ってきたが、14回の助成券が
母子手帳発行と同時に手渡されるようになった。
妊婦さんにとっては、経済的負担が軽減され、また、妊婦健診を定期的にきちんと
受診することで、医療者にとっても、妊娠管理、ハイリスク妊娠の早期発見にも繋がる。
しかし、舛添厚労大臣が、国会で「妊婦健診無料化」といったため、全て無料と解釈した
クレーマーから、助成で賄えない検査をする度なぜ金をとるのかとすごまれ、対応に
苦慮することも起こった。
全ての妊婦健診を無料化するには、さらなる助成が必要である。
今回も1年半(少子化対策の一つとして)の時限措置ということで、今後継続して国が交付して
くれるという確証がないため、市町村も様子を窺っている状況だ。
今後助成が継続的に行われ、公費負担金も増額されるよう要望する。
(産婦人科医会は14回の公費負担金を11万5千円と試算している。
埼玉県では、14回で89,780円が公費負担となっている。)
この措置も、2011年3月までの暫定措置である。
出産一時金は「現金給付」であり、直接医療機関への支払いを行うためには
「法」改正が必要であるが、今回は現行の「代理受領制度」を利用することになった。
この額を超える部分については、本人から差額をもらうことになる。
分娩費の39万円については、地域による差があり、産婦人科医会が今年1月全国調査
(2886施設のうち59%にあたる1707施設の回答による)を行ったところ、
出産費用(分娩料+入院料)の総額は、最高の東京51万5千円、最安の熊本県34万6千円、
全国平均42万4千円、埼玉県45万5千円。産科取扱い施設のアンケートによる
出産費用の適正価格は55万円との回答で、今後さらなる増額がのぞまれる。
(4) 本日(5月30日)の新聞報道によると、「厚生労働省は子宮頚がんと乳がん検診の
無料クーポン券を検診対象年齢女性760万人に配布」とある。
検診受診率を20%から50%への向上を目ざし、今年度補正予算で216億円を投じた。
いずれも選挙目あての時限措置で終わらせないよう、今後の継続的予算措置を強く望む。
日本産婦人科医会は、母子の生命健康と女性の健康の維持・推進に寄与することを目的に、
2年前に就任した寺尾俊彦新会長のもと、目的達成と、会員が安心して医療を提供できる
環境づくりに力を注いでいる。
今後とも上尾医師会会員の皆様にもご理解とご協力をお願いしたい。
付記:
2年前、医師会報でもお知らせした、「日本のお産を守る会」は、その後も活動を続け、
第3回シンポジウムが、去る3月14日東京ビッグサイトで行われました。
代表の田中啓一先生よりシンポジストを依頼され、当日
「日本のお産文化は守れるか?〜開業産科医としての遺言状〜
産科の灯が消える前に言い遺したいこと」
と題して発表しました。
その後、当日参加してくれた共同通信社 論説委員の記者が記事にして発信し、
琉球新報はじめ全国各地の地方紙が掲載してくれました。
昨日 担当の小川記者から、記事を英訳して、世界に配信したとのメールが届きました。
(埼玉新聞は、5月2日掲載)
『診療所が支える日本のお産』の見出しに、今少し続ける"勇気"と"励み"を与えられました。
講演内容と記事について、当院HP/ フォト・マンスリー・ダイアリ― 3月&5月号に掲載しました。
→フォト・マンスリー・ダイアリ― 3月号
→フォト・マンスリー・ダイアリ― 5月号